『即興小説ゲーム』公式ブログ

リレー形式で綴られる、2分30秒のライティングノベルイベント『即興小説ゲーム』の公式ブログです。みんなでやりましょう。

柴井貫喜常さんによる『即興小説ゲーム~三月の乱~ 』レビュー

即興小説ゲーム主催者の横林大々です。
 
今回は先日、もりのみやキューズモール内にあるまちライブラリーさんで開催された『即興小説ゲーム~三月の乱~』のレビューを、即興小説関連のイベントで常連となっている『柴井貫喜常』さんに執筆して戴きました。
 
また、2018年5月20日(日)には『即興小説ゲーム~体験会とエキシビジョンマッチと関係ないコント~』という初心者向けのワークショップも含んだ即興小説のイベントが開催されますので、そちらの参考にしていただければと思います。
(詳細は、レビューの一番下に掲載していますので、興味を持った方は是非ご覧ください)
 

 

 
即興小説ゲーム~三月の乱~ レビュー
 
 こんにちは、柴井貫喜常です。時々即興小説バトルにお邪魔しております。今回は観る側の目線で、僭越ながら各試合についての所感を述べたいと思います。よろしくお願いします。
 
 
 
 一回戦第一試合

 先攻・井上大輔 VS 後攻・森本直樹
お題『リスペクト』
ジャンル『ファンタジー』
どんな話『くだらない』

 

【先攻・井上大輔

俺は中学二年の田代!そう、みんなからはタリーと呼ばれている。


なぜタリーかって?
そう、俺はヘビとしゃべることができたり、親がすごい魔法使いだったり魔法学校にいっていたからだ!
つまり、タリー、タリーポッターだ。

 

最近、なんかすごいやつを倒した。魔法を使って。名前は出せないけど、名前を出せないやつを倒したんだ。

そして、これから、また新しい世界にいくことになった、それは今までにない完全な、だけどくだらない、ファンタジーの世界。

そう、その名は……、

 

【後攻・森本直樹】

 そう、その名前は。

 なんだったかやはり思い出せなかった。
 その世界はある手順を踏む、かつ特定の条件を満たしたものだけがたどり着ける。
 まずは俺の通う学校の裏山の大きな杉の木に登り夕陽が地に沈む瞬間を眺めること。
 そして、エジソンへの敬意を抱えること。

 

【先攻・井上大輔

そうしてエジソンへの敬意をこめて40年いきてきた。タリーポッターと呼ばれたのはもう、何十年も昔、もう誰も呼んでくれない。
だが、ようやくその成果が実った。
世界が開いたのだ。


そう、俺は事故にあった。
車にバーンとひかれた。白血病にもなった。そして、死んだ。

 

死んだとおもった。
だが。

 

「タリー、タリー」
少女の声で目覚める。そう、ここは異世界だった。俺は、異世界、でエジソンへの
敬意を胸に、生きていくことになったのだ。

 

 魔法少年○リーが、エジソンを敬いながら次の異世界へと旅立っていくお話。一回戦からなかなかインパクトのある戦いでした。ファンタジーというジャンルを全体的にパロディ要素で回収しており、ツボに入る人はずっと笑っているような試合となりました。

 審査の結果は先5-後0。勝敗を分けた要因としては、○リーポッター、異世界転生といった物語の主なファンタジー成分をいずれも提示していたのが先攻の井上さんだったから、というのが大きいと思います。一見ハチャメチャでありながら、世界観をずっとリードし続けていたので、客席側からの反応が良かったのも終始先攻のターンでした。なにより、勢いのある文体がすっかり対戦相手をペースに巻き込んでいました。
 後攻の森本さんも、主人公が転生する条件を提示するなど世界観の構築に貢献してはいたのですが、要素の回収に追われて逆転の目がつかめなかったのかなという印象です。前振りに対して「思い出せなかった」と否定的な返しをしたところもややマイナスポイント。ここで面白い新世界の名前を出せていたりですとか、エジソンとしてどのように生きていくのかなどを、面白おかしく書けていたならばまだまだ巻き返せる可能性もあったかもしれません。
 
 
 

一回戦第ニ試合 

 先攻・マナカ vs 後攻・室屋和美
お題『アイドル』
ジャンル『学園』
どんな話『笑える』

 

【先攻・マナカ】

いっけなーい遅刻遅刻

わたし、得毛美あつこ!

今日から私立四十八学園にやってきた転校生
!!

私は必ずここで、天下一アイドルになる!!

 

 

天下一アイドル

 

 

それは、全国の高校生女子が覇を競う、アイドルバトルロワイヤル

 

 

いまアイドルはかつての輝かしいだけのものではない。
アイドルとは、今では戦士を現す言葉なのだ。

 

そう、世はまさにアイドル戦国時代

 

【後攻・室屋和美】

?「諸君、よく集まってくれた」

全 あ、夏元やすし校長せんせい!

今から君たちにせんたー(生徒会長)の座を競って争ってもらう

はい!

手段は問わない。CDをうってうってうりまくって、握手券をうりまってくれ。
これが君たちの投票用紙となる。

せんたー(生徒会長)に選ばれたあかつきには、とびっきりの寵愛を与えてあげよう。

な、なつもとせんせいの寵愛!!

 

【先攻・マナカ】

なつもと先生の寵愛ってなんだろうって考えることを、私はあまりしなかった。


なんか、ちょっといやな感じがした。


寵愛は割とどうでもよくて


私にとってアイドルとは生き様そのものだからだ


だって、私は かわいい

 

そりゃもう、かわいい


1000年に一人どころじゃない

 

およそ1500年に一人ぐらいだと思う

 

だから、私がアイドルにならないなんて、世界に申し訳ないじゃん!!

 

【後攻・室屋和美】

天下一アイドルの幕があけた

会場は大勢の観客で賑わっている
頭にはちまき、手にペンライト。

舞台袖では女たちの血で血を洗う戦いが行われた
その争いがすごくて、みんな舞台袖で脱落していった

いろいろあったけど、この争いのくだりは割愛する

なにも考えていなかった私が、
楽屋でドーナツ食べていた私が
1500に一度の美女の私が
気がついたら勝ち残ってしまった

 

なつもと先生がゆっくりと渡しに歩み寄る

「おめでとう、今から寵愛の時間だ」

そして私がCDデビューした
夏元せんせいとのデュエットは
500万枚売れた

 
 自信満々の女の子がアイドル学園でセンターとなり校長と組んでCDを500万枚売るお話。「得毛美(えけび)あつこ」「四十八学園」「夏元やすし」「せんせいの寵愛」など先手からも後手からもキケンなワードが次々飛び出してくるデンジャラスな戦いが繰り広げられました。本番で機材トラブルがあり生で文面を観られなかったことが本当に悔やまれます。
 審査の結果は先4-後1。お二方ともいずれ劣らぬインパクト勝負を見せてくださいましたが、先攻のマナカさんが起のターンで叩きつけた世界観がやはり強烈すぎました。フワフワとした女の子の自己紹介が始まったと思ったら、いきなり低い声で「天下一アイドル」と凄みを利かせて世界観の説明が始まったときは、客席全体が唾を呑むのを感じたくらいです。
 室屋さんの返しも素晴らしく、世界観に乗っかったうえで物語に必要なワードを見事に回収しつつ、オチまでバッチリ綺麗に着けるという流石の敏腕ぶりを発揮されていました。実に甲乙つけがたい戦いではありましたが、結果的に世界観の方向性を初手から決定づけたマナカさんが押し切った、というのが今回の試合の印象です。
 即興小説バトルは先攻にパワーワードを効かせるプレイヤー、後攻にお話をまとめるのが上手なプレイヤーが付くと名作が生まれやすいというイメージがあるのですが、それ裏付けてくれるような名勝負だったと思います。
 
 
 

一回戦第三試合 

先攻・なべとびすこ VS 後攻・中山美咲
お題『エレベーター』
ジャンル『SF』
どんな話『泣ける』

 

【先攻・なべとびすこ】

その機種のエレベーターには隠しコマンドが仕込まれているという噂を聞いた。
1階から5階にあがり、そのあと降りずに3階にいき、つぎに8階に行く。

それをノンストップで達成するとコマンドが発動し、そのエレベーターで天国を観に行くことができるらしい。

天国に行くだけでは、ただ死ぬだけだが、このエレベーターなら降りてくることもできるという。

 

【後攻・中山美咲】

私は、馬鹿げた話だと思いつつ、そのコマンドを試すことにした。1年前にいなくなってしまった妻に会うために。

 

エレベーターが私をのせて上下する。身体に感じる重力が軽くなったり重くなったり。

ぐぐぐっと一度負荷がかかったとおもうと、エレベーターが停止した。

ウィン

鉄の扉が開いた。

 

【先攻・なべとびすこ】
8階に行く前に、扉がひらいてしまった。
黒い帽子をかぶった男が入って来て、7階を押した。
もちろんコマンドは失敗だ。男は降りていく。

僕はまた1階に戻って、再挑戦する。
また、あとは8階にあがるだけのところまで来た。

誰も乗ってこないでくれ…。
そう思ったのに、また黒い帽子をかぶった男が乗って来た。そして7階で
降りる。
何度やっても、黒い帽子の男が乗ってきてしまう。

 

【後攻・中山美咲】

7度目に男が乗って来たときに、私はたまらなくなって声をかけてしまった。
「お前、誰だよ。わざとやってるんだろ。」
「…」
男は答えない。
「なんなんだよ、人の邪魔して楽しいのか。」
「…。」
「答えろよ。」

「大事な人が天国に行こうとしてるんだから、とめるのは当たり前でしょ、あなた。」

その声には聞き覚えがあった。
黒い帽子を取った人物は、てっきり男だと思っていたが、見慣れた妻の姿をしてい
た。

 
 亡くなった奥さんに会おうとエレベーターに乗った男を、奥さんがこっそり追い返そうとする愛のお話。書き手のお二人とも整然とした文章を書かれる方で、最終的な作品としての完成度は今大会でも一二を争っていたと思います。静かだけれど確かな心の熱を感じられる、美しい物語でした。
 審査の結果は先3-後2。接戦でしたが、最初に提示された不思議な世界観の中で物語が進み、そのまま結末までが綺麗に描かれた結果として、先攻のなべとさんが勝利を手にしました。「エレベーターの隠しコマンド」「黒い帽子の男」という物語のカギを握る二つの要素が、試合全体を最後まで牽引しました。
 後攻の中山さんの返しは非常に堅実なもので、渡されたカギを最良の形で使い物語を紡いでいくという、どちらかと言えば勝敗よりも物語の完成度を重視した戦い方だったと思います。結末にもたらされた確かな感動は中山さんの手腕がなせた技と言えるでしょう。
 試合である以上勝敗はつくものですが、この物語はお二人が手を取り合って生み出した「ひとつの短編作品」としてのレベルが非常に高く、客席からの拍手も双方の健闘を強く讃えてのものであったような印象を受けました。
 
 
 

ニ回戦第一試合 
先攻・井上大輔 VS 後攻・ナカナオ
お題『桜』
ジャンル『恋愛』
どんな話『切ない』

 

【先攻・井上大輔
俺は走っていた。
ずっとずっと走っていた。

 

陸上部を卒業して(結果は悪くないけど良くもなかった)、なんとなく泣けて、それでなぐさめてくれた幼馴染と仲良くなって、なんて普通のことがあって。

それでも俺は走っていた。
あいつが東京にいくらしい。あいつの友達に聞いた。なぜ俺にいわなかったのか、
なぜ今日なのか、そんな思いを込めて、
桜の降る夜の街を走っていた。

 

【後攻・ナカナオ】

私は歩いていた。

夜の空にひらひらと舞う桜の花びらを見ながら。

あなたのことを思いながら。

東京の街はきれいで汚い。
あなたがいたら、もう少しこの景色もみえかたが変わるのかな。

 

俺は走る
私は歩く

 

【先攻・井上大輔
なんで走ってるのかなんてわからない、走って新幹線に乗る?乗ってどうする?東
京にいく?行ってどうする!


なんで歩いているだろう。何もなかったような顔をして。自分の気持ち押し殺して。なのに東京のあの公園のあの木の下の場所を書いた紙だけ友人に託して。

 

一体何をしたいんだろう。

 

【後攻・ナカナオ】

わたしはあの日、新幹線に乗ったあなたを責めることはできない。

2018年4月4日。
東北新幹線の事故が起こった。

約束の公園につく。
掘り出した彼のメッセージにはこう書かれていた。

春に行くよ。

 
 追いかけた男と、待っていた女の、叶わなかった悲しい恋のお話。お題の「桜」「恋愛」「切ない」という親和性の塊のような3要素から生み出された、爽やかで切ない恋の物語でした。ピュアで真っすぐ涙腺を刺激してくる、そんなお話だったように思います。
 審査の結果は先3-後2。先攻の井上さんが出した「東京にいく」「桜が降る夜の街」の二言が世界観のすべてを形作り、物語のイメージが鮮烈に伝わってくるものとなりました。簡潔に説明される二人の関係性と、一方で繊細に描かれる心情とのギャップが、聴く者の心を捉えて離しませんでした。
 後攻のナカナオさんは対照的に、淡々とした風景の描写によって二人の心境を描き出していました。先攻から後攻に手番が移ったとき、物語の視点が男から女へと切り替わったのは短編ならではの面白さがあり見事だったと思います。物語にきちんとした結末をもたらしたのも素晴らしかったのですが、ただ一つ残念なことに、解釈のミスでメッセージの出し手が入れ替わってしまったことだけが悔やまれます。
 短い時間の中で三つのテーマがすべて有効に活かされた試合でした。この物語の読まれる間だけは、会場の空気が映画を観ているように変わっていたのを覚えています。
 
 
 

ニ回戦第ニ試合

先攻・マナカ VS 後攻・なべとびすこ
お題『声』
ジャンル『学園』
どんな話『気持ち悪い』

 

【先攻・マナカ】
わたしは泉の声、いいと思うよ

昼休みに親友の天龍みなこがサンドイッチを頬張りながら私を慰めるように言う

 

なにがだ。


わたしがクラスの男子からどう呼ばれているか知りながらそんなことを言うのかと、私を慰める親友のことを恨めしく思ってしまう


私が、彼らになんと呼ばれているのか


熟年刑事だ

 

声が、平泉せいに似ているからだ

 

【後攻・なべとびすこ】

しかし、私は平泉せいの声を知らない。
家にテレビがないからだ。

クラスの男子は私にYoutubeの平泉せいの動画を見せようとしてきたが、私は走って逃げた。

だから私は平泉せいの声を知らない。
なのに、似ているらしい。


いっそこんな声を捨ててしまえたらと思う。


でも、それはできない

 

【先攻・マナカ】
ただいま


家に帰ると、台所からとんとんと包丁でねぎを刻む音が聞こえる

 

おかえり


母さんが私を出迎えてくれた


あんたが帰ってくるとね、いつもドキッとするのよ

平泉さん、きたのかなって思って

 

母は、テレビが壊れる前から、平泉せいの大ファンなのだ。

 

【後攻・なべとびすこ】

だから、母さんを喜ばせるために、喉を潰したりはしない。
だから学校で、熟年刑事と呼ばれるのも仕方ない。

でも…

母と過ごす時間は家に帰ってから寝るまでの間。

でも、学校は朝から夕方までだ。

ならば…
今日、私は平泉を捨てる。

 
 熟年刑事と渾名された女子高生が、己のしゃがれた声と向き合うまでのお話。コンプレックスを題材にした、諦めと悔しさがふつふつと伝わってくる気の毒で怖い物語でした。
 審査の結果は先4-後1。マナカさんの描き出した自分の声を強烈に嫌っている女子生徒は、存在そのものがお題のすべてを回収していて、登場時点でほぼ物語の方向性を決定づけていました。平泉成の声真似を交えた朗読はコミカルでありながら、彼女の抱える問題をありありと表現しており、転のターンで出てきた母親の趣味との板挟みにされているという描写もぞっとするものがありました。
 後攻のなべとさんも、主人公が学校で受けている仕打ちや、詳細な胸の内などをしっかり描き出していて、物語に大いに厚みをもたらしていました。最後の最後に耐えかねて、母親好みの自分の声を捨ててしまうことを決意するシーンには胸が苦しくなりました。
 文量自体は少なめですっきりとしたお話だったのですが、その中に含まれた情報量が多く非常に見ごたえのある試合でした。点差こそ出ましたが、お二人の表現が噛みあって生まれた見事な「気持ち悪い話」だったと思います。
 
 
 

先攻・井上大輔 VS 後攻・マナカ
お題『キャタピラ』
ジャンル『ミステリー』
どんな話『こわい』
 
 男たち三人が訪れた山荘で起こる、悲惨な殺人事件のお話。こちらは文章が非公開なのですが、ざっくりまとめると「山荘でキャタピラに踏みつぶされた友人を発見した主人公が、もう一人の友人である車田戦人(くるまだせんと、キュルキュルが口癖)に引導を渡す」という物語です。今大会においてシュールという表現が最もふさわしい作品だったと思います。
 審査の結果は先4-後1。先攻の井上さんが描き出した山荘での悲惨な殺人事件は、少々表現がゴアっぽくて会場の雰囲気的に大丈夫なのかギリギリでしたが、起・転のターンともにミステリー作品としてはいたって正統派の手堅い切り口だったと思います。
 マナカさんが「車田戦人」を出してきたあたりから物語の方向性が捻じ曲げられ、完全に後攻のペースとなりました。「車田戦人」は喋るたびにキュルキュルと音が鳴る強烈なキャラクターで、ここまでの試合でも「得毛美あつこ」「熟年刑事」などパワーワードを繰り出してはペースを我がものとしてきたマナカさんでしたが、決勝戦に来てその最たるものを目にしたように思います。だってもうコイツを犯人にするしかないじゃないですか。
 勢いのまま最後まで主導権を握り続け、マナカさんが栄光の優勝を手にしました。日頃の脚本制作に裏付けられた圧倒的な発想力と言語センスは目を見張るものがあり、勝つべくして勝ち上がったと思わざるを得ない見事な優勝でした。
 
 
 
 全試合通して、どの方もご自身の味を存分に生かして戦っておられ、趣の違う数々の名作・迷作をたっぷり堪能することができました。それこそが即興小説ゲーム最大の魅力であると思うので、この素晴らしいイベントを今後も続けていっていただきたいと強く願っております。皆様ももし興味を持っていただけたなら、ぜひ生の試合を観に会場までお越しください。
 ここまでお読みくださいましてありがとうございました。 柴井貫喜常